「あー、幸せ。授業の後のアイスはうまいなー」 一日の授業が終わり、俺と昌一はコンビニの前に並んで座り込んでいる。 日が傾き、空がオレンジ色に染まってきた。 「…どこぞの親父だよ。“仕事の後の一杯”みたいな」 「圭も買えば良かったのに。食べる?」 「…いや、いい。つか、こんな日にアイスなんか食えるかっ」 冷えてきた空気に肩を震わせる俺の隣で、昌一は平然とソフトクリームを食っている。 信じられん…。寒くないのかコイツは。今、何月だよ…。 「……寒い。早く食え」 「文句言うなよなー、負けたんだから」 そう言うと、昌一はケラケラと楽しそうに笑った。 くそぅ、ムカつく…。ただぼんやり待っている身にもなれ。 と思いつつも、楽しそうに笑う昌一の顔を可愛いと思っている自分もいる…。 くそぅ。 「……はいはい。待ってりゃいいんだろう…」 俺は小さく溜め息をつくと、半ばヤケになって答える。 仕方ない、負けは負けだ…。 自分自身にそう言い聞かせながら、俺の120円が昌一の腹の中に納まるのをじっと待っているしかなかった。 …それにしても、悔しい。 GAME。 それはただの暇つぶしだった。 「雨やんでるしー。傘、荷物になっちゃったじゃんかよ…」 「…予報が外れたな」 「中嶋さんが悪いんだ!」 「…誰、中嶋って」 「天気予報士」 「知らねぇ。どこの局だよ」 「4チャンか、6チャンか、8チャンか、10チャンか、テレ東かな」 「…何だそりゃ。なんでテレ東だけ局名…?」 「いいじゃん別に。じゃあ…日テレか、TBSか、フジテレビかー……。……とりあえずNHK以外」 「…今、10チャンがどこの局かわかんなかったんだろ?テレビ朝日だし」 「し、知ってたし!細かいこと気にしてたら禿げるよ」 「…余計なお世話だっ。…って、さりげなく鞄に傘引っ掛けんな」 「なんだよ、圭のケチー。禿げー。しいたけー。トマトー。酢豚に入ってるパイナップルー。低脂肪牛乳ー。アーモンドー」 「……どんな悪口だ。後半、俺の嫌いなもんじゃんか」 「カナリ効果的だろ。精神的苦痛によるストレス」 「…ストレスで入院したらどーすんだ」 「大丈夫!俺、癒し系だし、圭も“癒し圭”だし」 「……。シャレ…?寒ッ」 「ムッ!失礼なっ。…おりゃ!」 「…ッ!やめんかい、毛を引っぱるな」 「何が?気のせいだろ、気のせい」 「…いや、今明らかに『おりゃ』とか言ってただろう」 「嘘だ〜。気のせいだって。木の精!木の妖精の仕業だよ」 「…妖精?木の妖精が『おりゃ』って俺の髪を引っぱったって?」 「ティンカーベルみたいなやつがね」 「……寝ぼけてますね…」 「寝ぼけてませんっ!た〜っぷり12時間寝ました」 「…たっぷりすぎだろ!半日寝てんじゃん!」 「…ん?」 「…あ。」 しまったと思った時には遅かった。 昌一はニヤリと満面に笑みを浮かべている。 「はい、圭の負けー」 「…なっ、今のは違うッて!ちょっと間が開いちゃっただけだって!」 「だめだめ。しりとりは『ん』が付いたら負けだろ。俺、一応続きはないのかと待っててあげたのに」 「っ〜〜……」 思わず口ごもる。すっかり忘れて『ん』を言ってしまった…。 「往生際が悪いぞ。負けは負け!勝負の世界は厳しいんデス」 反論が出来ないでいる俺に、追い打ちを掛けるような一言。 確かに…しりとりのルールは守れなかった。負けは負けだ…。 「…わかりました。負けました…」 俺はかくっと肩を落とした。 …ちぇっ。 しりとりとは言え、なんか悔しい…。 いや、しりとりと言う簡単なゲームで負けたからこそ悔しい…。 そんな俺をよそに、昌一は 「負けた人はアイス奢ってね〜」 と、俺の腕を引っぱる。 「そんな罰ゲームあったっけ!?」 「今、決めた。負けたんだから文句言わない」 くそぅ…。 「次は負けねぇからな!」 それはただの暇つぶしだった。 しかし、負けず嫌いな俺には十分すぎるほど屈辱だった。
2004,11,03 |
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